
あのビミョーに膨張した缶詰に、缶切りの刃が当たると、ブシュッという鈍い噴射音とともに、ガスが一気に吹き出してきます。その次の瞬間、缶を開けていた人間が「うげっ」という叫び声を上げ、次いで「ぐぜー」と言って現場を離れようとするので、残酷な私は「そんなことでどうする、最後まで開けるんじゃ」と、ちょっと離れたところから叱咤激励するのでした。
やがて、周囲にもガスが拡散すると、ドブの泥を5年くらい置いて発酵させたような、激しい臭さが周囲を包むのでした。参加者は「うえー」と次々に叫び声を上げます。近くの子どもも参加していたのですが、「なんじゃこりゃー」と叫んで、10メートルくらい逃げていきました。
ついに缶が開きました。ここは私がお手本を示さねばなりません。一匹ひょいとつまんで口に入れました。小ぶりのニシンを漬けて発酵させた物ですから、形は魚そのものですが、骨までとろとろになっているので、手触りはかなり柔らかです。色は魚の銀色はうせて、表面が何だか白濁したような色になっています。

実は私は食べるのは二回目。しかし、前回はいろいろほかにも食べるものがあったし、酒もお茶もあった。今回は空きっ腹にこれだけを口に入れたので、かなり強烈でした。まず、口の中にピリピリとした刺激が走ります。さっきまで発酵したガスを吹き出していたのですから、口の中でも発泡しているのだと思います。次いで、口の中に猛烈なニオイが広がり、それが鼻へ抜けようとしています。しかし、ここでニオイを鼻に抜くと、それこそ脳天を直撃して、気絶しそうになります。息をじっとこらえて噛み砕き、ぐっと飲み干しました。
しかし、胸のあたりを通るときに、何だか熱いような痛いような感覚が走り、胃が持ち上がってくるような感じです。やはり口の中といい鼻といい、すごい臭気が渦巻いています。前回は一匹ぺろっと食べられましたが、今回はちょっと躊躇して、一気に残りを飲み込むようにして食べました。
次々にチャレンジャーが現れましたが、一匹食べられたのはもう一人だけ。ある若者は、何度も挑戦しようとしましたが、鼻に近づけるたびに吐き気を催すらしく、とうとう断念してしまいました。
ちょうど世界でいちばん臭い果物、ドリアンを持ってきた人がいた(誰じゃ、こんなもん持ってきたのは!)ので、その後で食べたのですが、ふだんはけっこう抵抗があるドリアンの臭気など幼稚園です。まったくニオイが気になりません。口の中に入れるとほのかに芳香が広がり、口の中がさっぱりします。さわやかで軽快な味の、特殊なドリアンかと思いました。

それにしてもすごいです。二時間くらいたってから、自分が発したゲップで自分が吐きそうになりましたから。服にも臭気が付いているらしく、食べていない人は、私が近寄るだけで臭いと言っていました。
最近では、通販などで手軽に手にはいるようになっていたシュールストレミング。ところが、現在、ヨーロッパの各航空会社が飛行機内で爆発の危険があるとして、次々に空輸を禁止ているため、輸入が事実上ストップしています。みなさん、スウェーデンの伝統的食文化を守ろう!
http://duva-lulea.com/
よくやった、と思われる方、ひとつグッと押してやってクサイ。
